『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘/西尾維新』感想・レビュー
- 2023.02.11
- 戯言シリーズ
古城、双子、首なし死体……世代が代わるほど久しい戯言シリーズはクビキリサイクルのようだと言われかねない空気感。
しかし心配無用。
主人公が代われば作品はがらりと変わる。登場人物に代替品はあっても主人公に代替品は無いからね。
キドナプキディング
なかなかタイトルが覚えられなかったんだけど、これ、マジで言ってんだけど、しかし読み終わると割りと頭に入りやすいタイトルになる不思議。
内容もさることながら、誇らしき盾こと玖渚盾のキャラクター性が非常に良かった。
どうせ異常で特異な能力、あるいは体質の持ち主なんだろうと最初は思っていたものの、それを忘れる程の普通さ。普通に頭の回転が早く、普通にツッコミを入れ、普通に常識がある。
「これ、マジで言ってんだけど」も、戯言遣いと対になる感じがして、程よく作品をマイルドにしてくれる。クビキリサイクルとの違いはそこだよね。協力者に変人はいるけど天才はいない。少なくとも玖渚友クラスの天才は。そういう意味じゃ哀川潤を序盤に持ってきたのは正解だった。宇宙人とからめるような女(盾は信じていなかったが)に登場されたら多くのキャラは平凡であり、凡人である。
孤島のような環境で
今回は孤島ではなく、周りに海はない。その気になれば外部との連絡は可能。
しかし機械を使えないという状況で、孤島と同じ状況になってましたね。
そして個人的にはこの状況、サイコロジカルに似ていたと思う。連行される(そう、連行である)シーンはクビツリハイスクールなんだけどね。
大人と言葉が通じにくいのもシチュエーションが似ていたかな。”できるできない”と”やりたいかどうか”の違いを大人はなかなか理解してくれないんですよね。スキルがあってもそれを行使するかどうかは個人の自由……みたいな要素が大人達には欠けている気がします。
ノブリス・オブリージュの否定っていうのかな、戯言シリーズの主人公には基本そういう要素が組み込まれている。
推理の行方
間違った推理がミスリードになってました。この辺もやっぱりサイコロジカル。読者を騙すこの構造が好きでして、
首なし死体=入れ替えトリックって普通思うじゃない? 今回はそれをミスリードの材料に使っていて、おもしろポイントだったと思ってます。盾の勘違いはほんとに勘違いだったのはマジで驚いた。推理役の勘が外れるってめずらしいパターンだよね。
そういう意味じゃ髪のくだりが嘘である点もサイコロジカルな感じかな。
キャラ的にも泣いて謝罪はポイント高いよ。さすがに可愛い。好感持てる。
あと彼女の特性は刀語の主人公のようだったね。その影響か、オチの前に彼女の能力に気付いた人もけっこーいたんじゃないかな。母親(玖渚友)がなぜルールをひとつ植え付けようとしたのか、その理由に。
まとめ
いや、良かった。素直に続編として良かったし、人間シリーズや最強シリーズを読んでいるからわかるエピソードもあって、いろいろ心に刺さりました。特に最強シリーズのネタが入るのは良いね。読んでない人はそっちも読んで欲しいけど、まあ、個人の自由なので無理強いはしない。
あえて苦言を呈すると、犯人の動機がいまいちよくわからんかった。ダメージを与えるをすっ飛ばして、殺すってのは急だと思うし、当人も急だと自覚しているようだけど、それでもいきなりだよね。過去作でこういったパターンはあまり記憶にない。あえていうなら妹を殺した赤神イリアか? あるいは彼女のクローンという布石かもしれないがさすがに考えすぎか。
ともあれ結果的に犯人の思惑どおり孤島に一生居られそうで、推理ものとして見るならある意味タブーな作品だったと思う。犯人の希望が叶うって哀川潤並に奔放だよね。コンプラ的な意味で。
講談社/西尾維新/キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘
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