『魔少年ビーティー/荒木飛呂彦』感想
- 2019.02.02
- 漫画レビュー
『ジョジョの奇妙な冒険』でお馴染み荒木飛呂彦のデビュー作。この頃から奇妙してます。個性を維持しているってのはなにげに凄いことで、こういうところにファンは惹かれるわけです。読切版は『荒木飛呂彦短編集 ゴージャス☆アイリン』の方に収録されているので今回はスルーとします。
精神的に身分がちがうのだ
ディオを少年にしたようなキャラクターが主人公。といっても実際には黄金の精神のようなものも持ち合わせているので、一応は正義の側といった感じです。まあギリギリですけどね。正義といっても視野が狭いです。とても狭い。それは家族と友人、気になる女性以外はどうでもいいってスタンスで、関わりの深い者にしか興味を示さないといったところがあるんですね。
で、ビーティーの友人が麦刈公一っていうんだけど、これがジョジョの4部に登場する広瀬康一みたいなキャラクターでして。まあ実際は麦刈公一が康一のモデルなわけなんだけど。人が良くて、ちょっと頼りなくて、それでいて芯がある――ここぞという時には意思をつらぬくような、そんな個性の持ち主です。公一=康一としてみると、ビーティーは露伴先生っぽくもあります。わがままで友達を振り回すんだけど、頼りになるとも思っている、そんな関係。
エピソード
恐竜化石泥棒事件の巻
デパートの警備員である西戸が印象的なエピソード。名前通りサイコな野郎で、だからこそビーティーが苦戦するんですね。公一がいなかったらマジで危なかったと思います。彼の活躍の後、ビーティーが自分の目に狂いはなかったといったリアクションをしたのが面白いですね。公一を認めつつも、自分の感性を褒めているような気もします。
西戸を突破した後でビーティーの行動がおばあちゃんの予想通りだったことが分かるのも面白いんだよね。法を無視して動くビーティーの個性をしっかりと理解しています。女スパイの正体についても納得ですね。もっともビーティーもただでは終わっていませんが。
そばかすの不気味少年事件の巻
駆け引きでビーティーが遅れを取るエピソード。最終回でもあります。
展開がジョジョ3部のダービー戦に似ていて、知識よりもイカサマが主軸になっています。こうなるともう物語の方向性は決まったも同然です。騙して勝つ、それだけです。
この2つが(一般的には)目立ったエピソードでしょうかね。でも個人的には『サマーキャンプ事件の巻』一番好きなんですよね。ハチとナイフのやつといえばそれだけで思い出す人もいるんじゃないでしょうか。友人のように見えても上下関係があり、信頼関係がそこに無いのであれば、そこが狙う以外の選択肢は無いって感じのお話でもあります。精神的な醜さに対しての罰といったシーンは『ジョジョの奇妙な冒険』においてもよく出てきますよね。『行動』で『負け』が決まるんじゃあなくて『心の弱さ』が『敗北』に繋がっているといった見せ方です。
まとめ
画力はジョジョと比べると当然劣りますが、行動や展開の節々に荒木飛呂彦っぽさがあります。根本がこれだけ変わらない漫画家って結構めずらしいです。
「精神的に身分がちがうのだ!」
「精神的貴族」
こういった言い回しがすでにあるのが面白いんですよ。ジョジョを読んだ後だからこその面白さっていうか。
社会のルールなんてものは気にしない。常識的な正しさよりも己の正しさの方を優先する――そういった意識がビーティーにはあって、そこが魅力の1つになってますね。
ただプライドが高すぎるし、挑発に弱く、好奇心が旺盛過ぎる。気になるものには顔を突っ込まずにはいられないその性格は本来なら欠点にもなり得ます。そのバランスを取る役割が公一であり、ビーティーが独裁的にならなかった理由でしょう。公一がビーティーに助けられるシーンは多いけれど、救われているのはビーティーの方なんですね。良いコンビです。
荒木飛呂彦はこの次に『バオー来訪者』を連載するんだけど、それよりもこの作品の方がジョジョや『岸辺露伴は動かない』に近いです。一番やりたいことをこの時にやったのかもしれませんね。
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