『クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子(西尾維新、竹)』レビュー

『クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子(西尾維新、竹)』レビュー

女装×人類最強。

そして弟子。

トリックはシンプル。だけどキャラクターは複雑にして難解。

ちなみにこれは6月の殺戮事件。

 

 

それでもミステリー

哀川さんとのユニークな掛け合いから始まるので、導入は非常に軽いんだけど、話の流れはやっぱりミステリー。

恩田陸や小野不由美の小説に主人公達が逃げながら犯人を探し、最後は推理して答えにたどり着くってのがあるんだけど、展開的にはそれに似てる。まあ登場人物に特殊部隊顔負けの少女達が出てくるので、ジャンルとしてミステリーかどうかは微妙なんだけどね。あくまで手法がミステリーなだけ。

事件の方も曲がり角で消えた犯人が実は近くにいた――みたいなそんなノリだ。

でも犯人が哀川潤を欺いたという意味では面白い事件で、身内に甘いというその性格を利用したことが物語のキーの1つになっていた。そもそもこんな事件、哀川潤が数秒で解けていないということは身内が犯人ということなので犯人に関しては推理する必要もないのだけど。人類最強は頭脳労働も得意なので、この程度で止まるということはそもそもがありえないのだった。

 

曲弦師は極限死

この辺からネタバレ注意(すでにしてるけど)。

曲弦師でもある紫木一姫は『病蜘蛛(ジグザグ)』の弟子で、簡単に言うと糸を使って戦う女子なわけだが、その殲滅力はちょっとした軍隊なら1人で倒せちゃうほど。

でもこれだけだと凄く説明不足で、糸といってもこの糸はナイフでも切れなかったりもするし、攻撃だけじゃなくて索敵や拘束や止血にも使えたりする。曲弦師は使い手次第で強さやスキルも異なるが、一姫は上位に値するので、実は作品のバワーバランスを崩す存在でもある。

っていうことを想定して読むと見方も少し変わる。だけどこの時点じゃ一姫の個性を理解するのは無理なんだよね。そこがこの小説の欠点でもあり想像力が必要とされる部分でもある。分からない部分にイライラする人もいるかもだが、戯言シリーズは基本的に多くを語らず話を進めるってのを作者が意図してやってるのでそこはもうあきらめてくれ。何より分からない部分があるからこそ読み返したくなるってのがポイントでもある。『ヒトクイマジカル』まで読んでから読み返すのはオススメの1つ。

ちなみに紫木一姫の人格はシリーズによって異なる。戯言シリーズにおいてはいーちゃんがそういった女性を好きだからこういったキャラクターになっているだけ。

ところで、一姫との会話シーンって切り取って見るとかなり面白い。時間が経つと印象が薄くなるんだけどね。葵井巫女子との会話みたいな感じ。面白いけど忘れやすいギャグアニメみたいなノリ。名台詞をまとめてくれている人もいるので、ファンは覗いてみるといい。台詞だけ見るのも案外面白い。

 

萩原子荻

おっぱいが大きい策士。けっこー好きなキャラクターで、惜しくもあるキャラクター。でも死んだ後もちょこちょこ名前が出てくるので嬉しい。『人間シリーズ』でも何度か登場。登場するたびに子荻ちゃんすげーってなる(ただし相性の悪い相手もいる

会話シーンも萩原子荻とのやり取りが一番好き。おっぱいが大きいという情報を読者に与えてくれた戯言遣いの功績は大きい。デレさせたことも、ある意味では大きな出来事だったんだけど、レアではあるのだけれども、時と場合が悪かった。タイミングって大事。

スペック的には戯言シリーズでは最高水準のはず。だけど、だからこそいーちゃんの相手は荷が重かった。ラスボスからも一目置かれるキャラクターだったんだけどね。うーん、ほんと惜しい。完璧に近いが故に思わぬ落とし穴。

弱点は好意

 

戯言遣いにとっては天敵だったかもしれない玉藻ちゃん

後から気付く西条玉藻の凄さ。本能で生きてるような女なので『戯言』があんまり効かない気がする。聞かない気がする。

出番が少ないので本作では印象薄めなんだけど、小動物的な可愛さがあって、絵で表現すると案外人気が出そうなそんな気がする。子荻ちゃんとは別の意味で惜しいキャラクター。

 

まとめ

いーちゃんの指(骨折)治るの早くない?  まあ完治では無いんだろうけどさ。それにしても凄い回復力だ。

大抵の密室事件には密室であることの意味がない。それを踏まえて読むと面白い。トリック自体は単純なのがいいですね。こういうのは読み返しても違和感が少ない。ただミスリードの仕方には違和感が。犯人が分かった上で読み返すと展開がご都合過ぎる気がした。バレない方がおかしい。

女子と一騎当千という組み合わせはちょっとラノベっぽい。といってもやはり『クビツリハイスクール』の世界観は、本作だけだと非常に分かりづらい。というより完全に理解するのは無理だ。『人間シリーズ』を読んで初めて分かった部分もあったしね。この辺はなんとなくで読むのが吉。

『無為式』という言葉はここで初登場。子荻ちゃんが名付けたんだけど、これが戯言遣いの特徴を見事にあらわしている。いーちゃんは悪くないかもしれないが、今作(澄百合学園)で死人の数が増えたのはいーちゃんの影響。

 

安定の二段落ちは今回もグッド。看護師がいけてる。あんな人がいるなら入院してみたい。

そして彼女とのやり取りで哀川潤の性格が分かるのも面白い。身内の視線を気にするぐらいだし? そこは案外まともというか、むしろ閉鎖的ともいえる。性格は開放的なのに。