『死刑執行中脱獄進行中/荒木飛呂彦』感想

『死刑執行中脱獄進行中/荒木飛呂彦』感想

短編集。当時は12年ぶりの短編漫画の単行本。

面白いのもあれば、正直イマイチーなものも。荒木飛呂彦ってキャラクターの魅力がそのまま作品にちゃうタイプの漫画家なんだよね。そこが長所なんだけど、短編集だと短所にもなり得ちゃう。短い時間でキャラクターの魅力を引き出すのは難しいから。

 

 

死刑執行中脱獄進行中

タイトルにもなっているエピソード。なんだけど一番微妙。

これおそらく死刑執行と脱獄の同時進行が面白いんじゃないかという一点でのみ構成されていると思うんだよね。一発ギャグみたいなもので、こういうことがあったら面白いでしょう――みたいな。キャラクターより設定を重視した結果こんな出来になっちゃったって感じ。

個性的な漫画ではあるんだけど、面白いかと問われるとそうでもない。精神的なドラマがなさ過ぎるんですよ。意図は分かるけど、頭脳戦でグッとくるものがない。キャラクターの魅力が弱いからね。なのでオチでいまいちテンションが上がらない。

あと最後に老人となった死刑囚が描かれるんだけど、それまでの食事とかどうなってるのかよく分からない。これ多分、作者も分かってない。荒木飛呂彦ってたまにこういうことするんですよ。自分でも疑問だと思えることを平気でするんです。それでこれどうなってるのかなあってあとがきとかで書いちゃったりしてね。

 

ドルチ 〜ダイ・ハード・ザ・キャット〜

猫vs人。

こちらは精神的なものが強く作用している。己の弱さによって自己を貫けなかった――ウソをついたことが敗因になるところが荒木飛呂彦らしい。

より具体的に言うと、この話は人間の方がエライという前提で話が進み、その上で人間が勝負を持ちかけ、結果負けて、その後で(人間側が)ルールを変えようとする。その行動そのものが『敗北』を招いているわけです。勝負の過程というのは後で付いてくる。矛盾しているように見えるかもしれないんだけど、こういったワールドは荒木飛呂彦作品においてはめずらしくない。行動が結果、勝敗は過程。勝てない者は勝てない。それは相手が強いからではなく自分(の心)が弱いから。

最後にドルチ(猫)が喋ったのは、猫が人間に劣るとは限らないという意味かもしれない。

 

岸辺露伴は動かない 〜エピソード16:懺悔室〜

マジで岸辺露伴が動かない。

ルールがあって、それを曲げたら痛い目に遭うという世界観での戦い。そうこれは戦いなのだ。生き抜くための。

人間ドラマがある分ちょっと面白いんだけど、オチを知ってしまうと途端に読みづらくなる部分もある。二段落ちの部分は好みではあるけど。

ちなみに文庫版には載っていないエピソード。現在では『岸辺露伴は動かない』の1巻に収録されているので、読みたい人はそちらからどうぞ。

 

デッドマンズQ

まさかの吉良吉影

それは別にいいんだけど、ここまで形にしたのであれば続編作ればって感じでもある。スタートはいいんだけど、エンディングがやや消化不良。幽霊となった吉良吉影の今後が読みたくなるエピソードといえば褒めすぎか。

幽霊屋敷ではなく屋敷が幽霊というのは、作者が当時はまっていた設定なのだろう。6部でもこの設定は使われた。

ホラー演出が光る作品で、絵的な恐怖はこのエピソードが一番かも。危ないぞという感覚が強いというか、危機感がある。特有のルール、攻略して突破できる展開など、キャラクターは4部だが、設定や展開は5部以降のジョジョといった感じ。

 

 

死刑執行中脱獄進行中 (集英社文庫(コミック版))